数学\(\mathtt{ VB } \ \)ガロア流方程式の解法技術


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1st upload: 2023/06/17
revision2 : 2023/07/27
revision3 : 2024/12/22
revision4 : 2025/09/14

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【第4章】超クール!終結式

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\(\qquad \qquad \qquad f(x)=x^3-3x+1 \qquad Galois \ Group:A_3\)

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【4-1】最小多項式を簡単に計算する魔法の計算法

第4章は、第2章と同じ3次方程式を扱います。従って解説はなるべく簡単にします。

\(f(x)\) の係数は有理数体 \(Q\) の数ですが、第2章と同様に計算過程で、1の3乗根 \(\omega\) が必要になる為、あらかじめ \(\omega\) を有理数体 \(Q\) に添加して おきます。従って、基礎体は \( \boldsymbol{F_0 \equiv Q(\omega)}\) となります。

ガロアは、\(f(x)\) の3根を使って、(1.2)で定義される「原始元」\(primitive \ element\) という概念を導入しました。 \(\{ \alpha,\beta,\gamma \}\) の係数 \(\{1,2,3\}\) は、異なる数値であればなんでも良いです。

\begin{align} f(x)&=(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma)= x^3-3x+1=0 \qquad \in F_0[x] \\ \notag \\ v&=1\cdot\alpha+2\cdot\beta+3\cdot\gamma \end{align}


今後、この原始元 \(v\) の最小多項式により、単拡大 \(F_0(v)\)を定義してゆくことになります。

第4章では、第1章から第3章とは異なった方法で最小多項式を求めます。非常に重要な計算方法です。
先ず \(f(x)\) を \(\{ \ (x-\alpha), \ (x-\beta),(x \ -\gamma) \ \}\) の3式を使って、以下の様に順次割り算してゆきます。

\begin{align} f(x)&=x^3-3x+1 \notag \\ \notag \\ f(x)&=(x-\alpha)(x^2+\alpha x+\alpha^2-3)+(\alpha^3-3 \alpha +1) \notag \\ &=(x-\alpha)q_1(x)+r_1\\ \notag \\ q_1(x)&=(x-\beta)( x+\alpha+\beta )+(\beta^2+\alpha \beta +\alpha^2-3) \notag \\ &=(x-\beta)q_2(x)+r_2\\ \notag \\ q_2(x)&=(x-\gamma) \cdot 1+(\alpha+\beta+\gamma) \notag \\ &=(x-\gamma)q_3(x)+r_3\\ \end{align}


上記の式変形より、\(f(x)\) は \(\alpha\) を根に持ち、 \(q_1(x)\) は \(\alpha\) 以外の \(\{\beta,\gamma\}\) を根に持ち、\(q_2(x)\) は \(\gamma\) を根に持っているはずです。従って、(1.3)-(1.5)より、各ステップの余り \(\{r_1,r_2,r_3\}\) もゼロでなければなりません。 従って(1.6-8)が成り立ちます。これらは「剰余の定理」から導き出された \(\{\alpha,\beta,\gamma\}\) の 間に成り立つ重要な関係式です。最後に(1.9)は、(1.2)の右辺を左辺に移項移項した式です。

\begin{align} f(\alpha)=0 \quad &\Rightarrow \quad r_1=\alpha^3-3 \alpha +1=0\\ q_1(\beta)=0 \quad &\Rightarrow \quad r_2=\beta^2+\alpha \beta +\alpha^2-3=0\\ q_2(\gamma)=0 \quad &\Rightarrow \quad r_3=\alpha+\beta+\gamma=0\\ eq(1.2) \quad &\Rightarrow \quad r_4 \equiv v-(\alpha+2\beta+3\gamma)=0\\ \end{align}


さてここからが重要な考え方です。(1.6-9)は \(\{\alpha,\beta,\gamma,v\}\) の4元連立方程式だと考えられます。連立方程式を解くときは 変数を消してゆき最後に1変数の方程式に変形するのが常套手段です。
変数を消去してゆく手段が終結式 (Resultant)と呼ばれる方法です。
例えば、2変数連立方程式 \(\{f(x,y)=0,g(x,y)=0\}\) の解を求めるとします。計算ソフトmaximaにはこの2つの多項式から変数 \(y\) を、 消去したいときは \( \ resultant( \ f(x,y), \ g(x,y), \ y \ )\) という命令があります。この命令を3回以下のように繰り返すと、 変数 \(v\) だけの方程式が残ります。4元連立方程式は(1.12)の \(v\) を解くことによって全ての変数 \(\{\alpha,\beta,\gamma,v\}\) を 求める事が出来るという計算の順序になるわけです。

\begin{align} &s_1:resultant(r_4,r_3,\gamma); & s_1&=-\beta -2 \alpha -v=0 \\ & \qquad \qquad \Downarrow \notag \\ &s_2:resultant(s_1,r_2,\beta); & s_2&=3 {{\alpha }^{2}}+3 v \alpha +{{v}^{2}}-3=0 \\ & \qquad \qquad \Downarrow \notag \\ &s_3:resultant(s_2,r_1,\alpha); & s_3&={{v}^{6}}-18 {{v}^{4}}+81 {{v}^{2}}-81=0 \\ \end{align}


原始元 \(v\) は(1.12)を満足しなければならない事が判りました。そこで改めて、(1.12)の \(s_3\) の代わりに 第3章まで導入したガロア分解式 \(V(x)\) と定義します。

\begin{align} &V(x) \equiv x^6-18x^4+81x^2-81=(x^3-9x-9)(x^3-9x+9) \\ \end{align}

ここで\(V(x)\) は既約多項式ではありません。また、\(v\) の最小多項式は既約多項式である必要があります。
そこで、\(V(x)\) の因数分解された2つの多項式のうちどちらでも構いませんが、 ここでは第一番目の多項式を、\(v\) の最小多項式 \(g_0(x)\) として(1.14)の様に定義します。

\begin{align} &g_0(x) \equiv x^3-9x-9 \qquad \therefore \ g_0(v)=v^3-9v-9=0\\ \end{align}

この様に消去法を使うと、最小多項式 \(g_0(x)\) をいとも簡単に得る事が出来ます。
第1章の \(V(x)\) の計算法は代数計算ソフトmaximaで計算しても時間がかかりますが、上で紹介した消去法での 計算時間は一瞬で終わります、その意味でも消去法の威力は、いわば「魔法の計算方法」です。


【4-2】ガロア分解式 \(V(x)\) と最小多項式 \(g_0(x)\) の次数が異なる場合の注意点 

\(\nextSection\)
(1.2)で定義された \(v \ (=v_1)\) は(1.12)又は(1.13)の一つの根です。従って \([ \ V(x)=0 \ ]\) は、6次の方程式ですから 下式の様に6個の根 \(\{v_1,v_2,...,v_6\}\) を有しています。

\begin{align} &V(x) =(x-v_1)(x-v_2)(x-v_3)(x-v_4)(x-v_5)(x-v_6) \\ \end{align}

\(v \ (=v_1)\) は \(\{\alpha,\beta,\gamma\}\) で定義されているので、 \(V(x)\) が \(F_0\) 上の多項式である為には、 \(V(x)\) は \(\{\alpha,\beta,\gamma\}\) の 対称式である必要があります。 その為には、\(\{v_i\}\) 全体が \(S_3=\{\sigma_1,\sigma_2,...,\sigma_6\}\) の全ての置換操作で不変である必要があります。従って、\(\{v_1,v_2,..,v_6\}\) は以下の様になります。

\begin{align} &\left\{ \begin{array}{l} \sigma_1 (v)=v_1=\alpha+2\beta+3\gamma &\sigma_2 (v)=v_2=\alpha+2\gamma+3\beta \\ \sigma_3 (v)=v_3=\beta+2\alpha+3\gamma &\sigma_4 (v)=v_4=\beta+2\gamma+3\alpha \\ \sigma_5 (v)=v_5=\gamma+2\alpha+3\beta &\sigma_6 (v)=v_6=\gamma+2\beta+3\alpha \end{array} \right. \\ \end{align}


しかし(1.14)の最小多項式 \(g_0(x)\) は3次の多項式なので、 \(g_0(x)\) は3根しか根を持たないはずです。従って \(V(x)\) の6根 \(\{v_1,..,v_6\}\) の中から、\(g_0(x)\) の3根を 選ぶ必要があります。それは次節に説明します。

元々、単拡大 \(F_0(v)\) は既約多項式で生成されるものであって、単純にガロア分解式 \(V(x)\) で生成されるものではありません。 第1-3章までの \(V(x)\) はたまたま既約多項式であったので、\(V(x)\) がそのまま単拡大を生成する最小多項式 \(g_0(x)\) として 定義されていたわけです。
従って最小多項式を決定するときには、必ず \(V(x)\) が基礎体で既約かどうかをチェックする必要があります。

また単拡大を生成する \(g_0(x)\) は3次の既約多項式なので、単拡大の拡大次数は \([F_0(v):F_0]=3\) となります。 更に言えば、拡大次数が3であると言う事は、\(Gal(F_0(v)/F_0)\) は3つの要素からなる群なので、対称群 \(S_3\) ではなく、その部分群 \(A_3\) であるという 事までわかります。

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