【補足1】 代数体上での因数分解
APX1-0 始めに:Net上での「拡大体上での因数分解」の議論の経緯
【 議論の経緯 】
この話題の発端は、
● "jurupapa"氏の解説記事 https://maxima.hatenablog.jp/entry/2019/01/13/231353
で紹介された計算ソフト
maximaの関数" factor(p,q)"によって、多項式 \(q\) で定義される
代数体上で多項式 \(p\) を高速に因数分解できるという紹介から始まりました。
これを受けた解説記事が次です。
● 井汲氏の解説記事 https://ikumi.que.jp/blog/archives/746#more-746
井汲氏は、上記記事の中で、因数分解の理屈を詳しく解説されておりますので参考になります。
その中にも書かれている様に、拡大体上での因数分解に関して、以下の論文がよく引用されております。
● 元吉文男 「巡回群をガロア群に持つ 5 次方程式の判別とその解法」
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/0722-02.pdf
この論文では、代数体上での因数分解の手順が具体的に書かれておりますが、その理屈は殆ど言及されておりません。
そこで、" Period-mathematics"氏の下記の資料は、元吉氏の計算処理の証明が記述されており、大変参考になります
● https://drive.google.com/file/d/1jdmyQHRMzAzFwR44M5F1KhW6wTBrNR55/view
「終結式」に関しての解説としては、以下の資料が良いと思います。
● https://miz-ar.info/math/algebraic-real/posts/03-arithmetic.html
私がこの補足を書くにあたり上記の文献を参考にさせていただきました。有難うございました。
【 この補足の話の流れ 】
代数体上での因数分解に関して中心話題は、下記の「元吉アルゴリズム」と言われるものです。
元吉アルゴリズム \(f(x) \ \in F_0[x]\) の代数体 \(F_0(v)\) 上での因数分解法
(step.1) \(v\) の定義多項式を \(g(x)\) とする。但し \(g(v)=0\) である。
(step.2) \(f(x-s \cdot v)\) と \(g(v)\) とで、\(v\) に関する終結式 \(Res(f(x-sv),g(v),v)=R(x)\)
を求めるが、この時 \(R(x)\) が無平方になるように\(s\)を決める。
(step.3) \(R(x)\) を \(F_0\) 上で因数分解する。\(R(x)=(-1) \cdot R_1(x)R_2(x)R_3(x)\)
(step.4) 各\(R_i(x)\)と\(f(x-sv)\) とのGCDをとる。
\(f_i(x)=GCD(R_i(x),f(x-sv))\) とすると
\(f(x)=f_1(x+sv)f_2(x+sv)f_3(x+sv)\) となって因数分解が出来る。
キーワードは、
「終結式」と「GCD」です。
「終結式」に関しては、いくつもの表現方法があります。この補足では終結式を2種類の見方で説明しております。
以降のページの「\(Res(f(x+v),g(v),v)\)の分析(1)(3)」がそれに相当します。
「GCD」即ち最大公約数(式?)は、終結式とはあまり関係がないように思えます。
「どうしてこの2つが結びつくのか?」という疑問が湧きますが、具体例で計算してみると、よくその理屈が判ります。
ここまで来るとやっと、「元吉アルゴリズムが何をやっているのか?」、更には「代数体上での因数分解」とは
どういう意味を持っているのかが、やっとわかるようになります。
ガロア理論を使って方程式を解く際には、代数計算ソフトmaximaの命令 \(factor(p,q)\) の背後に
隠れてしまって、表には見えませんが、その役割は極めて重要だと私は思い知らされました。
最後にこの話題は【補足5】にも出てきます。
次ページに続く